当院では透析30年以上の患者さまでも良好な活動を維持できるように透析合併症に対して対応しております。
透析アミロイドーシス/手根管症候群
腎機能がわるくなると『β2-MG(ベータ・ツー・ミクログロブリン)』と言うタンパク質の排泄が悪くなります。そのβ2MGがアミロイドとして体中の至る所に蓄積・沈着し悪さをします。早ければ5年くらいから発症し、手の親指・人差し指・中指、肩・股関節などがしびれて痛んだり、バネ指になったり、手首が動かせなくなったり手が握れなくなったりなど、体の動かせる範囲が減ってしまいます。心臓や腸にも溜まって働きが悪くなってしまいます。
その一つに手根管症候群というのがあります。夜間に激しい痛みを訴え、拇指球筋の萎縮、弾発指(ばね指)、肩痛などを合併するのが特徴です。
予防方法は基本的な治療として、原因となるβ2ミクログロブリンをなるべく透析で取り除くことです。高性能透析(ハイフラックス)膜ダイアライザーの使用やβ2-MG吸着器の使用することで血中を積極的に除去する対策をします。当院でも前述の予防方法として定期採血で血液中β2MGを測定しております。
ご自身のデータをご覧ください。
透析液の清浄化を図ることも予防の一つです。細菌に含まれる毒素であるエンドトキシンが問題となります。
透析医学会の透析液の水質評価基準で達成目標濃度:10 EU/L以下とされており、当院では月1回で測定し、目標値以下を常に維持し、高性能透析膜をほとんどの方が使用されている状況です。又、予防として全透析液にカーボスター(無酢酸)を使用しております。
今後、移転を考えており、onlineHDFといったさらなる透析アミロイドーシスの予防を検討しております。
治療として痛みなど症状を有する場合は手根管開放術・滑膜切除術・神経剥離術などが行われます。また、腎移植は最も有効な治療法です。腎移植が成功すれば、少なくとも新たな骨嚢胞発生は起こりません。移植後に臨床症状は改善されますが、アミロイド沈着が消失するか否かは明確ではありません。
腎性貧血(じんせいひんけつ)
何故、貧血になるのか?
腎臓からエリスロポエチン(EPO)というホルモンが作られます。そのホルモンは造血(赤血球をつくる)機能があり、腎臓の機能が悪くなってくるとそのホルモンを作る機能も低下します。その貧血を"腎性貧血"といいます。
この腎性貧血は症状として疲れやすかったり、息切れがあったりすることがあります。
2008年版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」では、
週3回の血液透析を受けている患者に対して以下のような赤血球造血刺激因子製剤(ESA) 療法における目標ヘモグロビン(Hb)濃度を推奨しています。
- 週の最初の血液透析前に仰臥位で採血した場合、推奨する目標Hb 10~11 g/dL(ヘマトクリット(Ht)値 30%~33%)である。
Hb 12 g/dL(Ht 36%)を超えた場合にはESAを減量あるいは休薬する。 - ESAの投与開始は、複数回の検査でHb 10 g/dL未満(Ht 30%未満)であった場合とする。
- 活動性の高い比較的若年者では、目標Hb 11~12 g/dL(Ht 33%~36%)とする。Hb 13g/dLを超えた場合にはESAを減量あるいは休薬する。ESAの投与開始は、複数回の検査でHb11 g/dL未満(Ht 33%未満)であった場合とする。
なお、心疾患を合併している方では、高すぎるヘモグロビン濃度で死亡のリスクが増大するとの報告があます。このような方は、ヘモグロビン濃度が高くなりすぎないように気をつける必要がある。
ただ、最終的には個々の患者さんの病態にあわせて目標値は設定されます。
最近、従来の赤血球造血刺激因子製剤より投与回数(1回/4週)が少ない、持続型の赤血球造血刺激因子製剤も開発され、治療の選択肢がひろがりました。当院でも治験に参加いたしました。
また、当院では月に一回 鉄(Fe)濃度を測定し、鉄欠乏の評価とそれに基づく適切な鉄補充も行っております。
参考文献
2008年版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」.透析会誌 41(10): 661-716, 2008.
鉄欠乏性貧血
腎性貧血の治療にあたる前に鉄代謝の評価は必ず行わなくてはいけない。
ESAの効果を十分に発揮させるためには必要に応じた鉄の供給が重要である。
鉄代謝の評価を行う際にはトランスフェリン飽和度(TSAT)と血清フェリチンで行います。フェリチンだけでは炎症疾患、感染症、肝臓疾患、悪性腫瘍では高値を示すため、上記の2つを用いて鉄欠乏性貧血の評価を行います。
鉄の評価と補充療法
鉄を投与するタイミングは①TSAT 20%以下、②血清フェリチン 100ng/ml以下であれば鉄の補充を開始する。
経口では鉄の吸収率が悪い(30%ほどしか吸収されない)ので、主に静注が用いられます。